眼科疾患・手術
眼瞼・眼窩・涙道疾患
睫毛内反症
睫毛内反症とはどんな病気?
睫毛内反症(しょうもうないはん)は、まつ毛が眼球の方向に向かって生えている、または巻き込んでいる状態を指す疾患です。この状態は、まぶたの皮膚と眼輪筋(がんりんきん)の乗り上げによって生じます。アジア人の場合、上まぶたの内側に蒙古襞(もうこひだ)と呼ばれる特徴的な皮膚のひだがあり、また下まぶたの二重構造が欧米人と比べて弱いという解剖学的特徴があります。これらの要因により、睫毛内反症はアジア人の小児に特に多く見られます。
患者さんは異物感や痛みを感じ、充血や涙が多く出る症状が見られます。小児の場合はまぶしがったり、目を擦りたがったりする様子が見られることがあります。
睫毛內反症
術後
治療は?
乳幼児の睫毛内反症では、多くの場合、成長に伴って自然に改善することが知られています。日本人の小児を対象とした研究では、3ヶ月から18歳までの約4,500人を調査した結果、生まれたときには約50%に見られたものの、顔面の成長とともに9割が自然治癒しました。そのため、症状が軽度な場合は、定期的な診察で経過を観察する方法が選択されます。この際、角膜を保護するための人工涙液や保湿点眼薬を使用し、眼の表面を保護することもあります。
ただし、まつ毛が持続的に角膜を刺激し、角膜びらんや潰瘍を引き起こしている場合や、子どもが頻繁に目を擦るなどの症状がある場合は、手術治療を検討する必要があります。特に注意が必要なのは、視機能への影響です。人間の視力は生後から発達を続け、8歳頃までに完成するとされています。この時期にまつ毛による刺激で常にピントが合わない状態が続くと、脳が正しい視覚情報を学習できず、弱視になるリスクが高まります。
どの時期に手術すればよいのでしょうか?
手術のタイミングは、症状が日常生活に支障をきたす程度によって判断します。具体的には、視界が制限され、読書や運転などの日常活動に支障がある場合、頭痛や肩こりなどの症状が出現している場合、外見の変化が気になり社会生活に影響がある場合などが手術を検討する目安となります。
手術内容は?
手術による治療は、通常局所麻酔あるいは全身麻酔で行います。局所麻酔が安全に施行できる年齢は、15歳以降です。それ以下の場合には、ケースバイケースで全身麻酔あるいは局所麻酔を選択します。
手術は主にHotz変法と呼ばれる方法で行い、睫毛根のすぐ下の皮膚を切開して糸をかけることにより、まつ毛の向きを外側に矯正します。内眼角の皮膚のたるみ(蒙古襞)が強い場合には、内眼角形成術を併用することで、より確実な治療効果が得られます。片側で30分程度の手術です。
術後の経過は?
手術直後は、まぶたの腫れや軽度の内出血が生じるのが一般的です。これらの症状は通常、1週間程度で徐々に改善していきます。手術当日は痛みを感じることがあるため、必要に応じて鎮痛剤を内服いただきます。抜糸は通常5〜7日後に行います。
術翌日には、まぶたの腫れや内出血が見られますが、これらは徐々に改善します。腫れは1週間程度で落ち着き始め、3〜6ヶ月程度で最終的な仕上がりに近づいていきます。抜糸は通常、術後5日〜2週間の時点で行います。洗顔や洗髪、入浴は手術の翌日より行っていただけます。石鹸やシャンプーを泡立ててやさしく創部を洗浄するようにしてください。
皮膚の乗り上げが強い症例では、術後しばらくして睫毛内反の再発を認めることがあります(5%程度)。再発の場合には必要に応じて手術の追加を行います。